果皮
Exocarp
チェリーの外側の皮。赤く熟すと収穫の時期です。
PROCESSING METHOD
珈琲の味は、産地や品種、焙煎だけでなく、
収穫したあとの工程によっても変わります。
生豆になるまでの「精製」を見てみましょう。
INTRODUCTION
珈琲の味わいを決めるものは、産地や品種、焙煎だけではありません。
収穫されたコーヒーチェリーから種子を取り出し、生豆として保存できる状態にするまでの工程を「精製」と呼びます。
果実を付けたまま乾燥させるのか。
果肉を取り除いてから乾燥させるのか。
種子の周囲にあるミューシレージをどのくらい残すのか。
その違いによって、同じ産地、同じ品種の珈琲でも、香りや酸味、甘み、口当たりには違いが生まれます。
けれど、精製方法はもともと、味をつくるためだけに生まれた技術ではありません。
雨の少ない土地。
雨期と乾期がはっきり分かれる土地。
一年を通して湿度が高く、収穫期にも雨が降る土地。
水が豊富な土地、水が貴重な土地。
珈琲を育てる土地には、それぞれ異なる気候と環境があります。
収穫したチェリーを傷めず、
どうすれば保存できる生豆に仕上げられるのか。
その土地の気候や水、設備、流通などの条件に合わせて培われてきた方法が、それぞれの精製方法につながっています。
そして、その違いが結果として、その土地の珈琲らしい味わいの一部にもなってきました。
FROM ORIGIN TO ROASTERY
淡島珈琲は、生産地で珈琲を栽培しているわけでも、現地で精製を行っているわけでもありません。
私たちが実際に向き合っているのは、精製を終え、日本へ届いた生豆です。
けれど、さまざまな生豆を焙煎し、飲み比べていると、同じ産地や品種でも、精製方法によって香りや味わいに違いを感じることがあります。
この豆がどこで育ち、収穫されたあと、
どのような工程を経てここまで来たのか。
それを知ることは、生豆を理解し、どのように焙煎するかを考えるうえでも大切なことだと感じています。
このページでは、研究機関や生産者、コーヒー関連機関などから公開されている情報をもとに、代表的な精製方法とその背景をご紹介します。
そして後半では、さまざまな精製の生豆を焙煎し、飲んできた側から、淡島珈琲が感じていることについても少し触れてみたいと思います。
STRUCTURE OF COFFEE CHERRY
FIGURE 01
私たちが焙煎している「コーヒー豆」は、コーヒーチェリーの中にある種子です。
精製方法の違いは、果実のどの部分を、いつ、どこまで取り除くかによって生まれます。
Exocarp
チェリーの外側の皮。赤く熟すと収穫の時期です。
Mesocarp
やわらかい果肉。甘みを含んでいます。
Mucilage
種子のまわりにある糖分を含んだ粘液質。
Parchment
種子を包む内果皮。乾燥後に脱殻して取り除きます。
Silver Skin
種子に密着した薄い皮。焙煎時に剥がれます。
Seed (Green Bean)
私たちが焙煎する「コーヒー豆」です。
果実のどの部分を、いつ、
どこまで取り除くか。
それが、精製方法の違いを知るための大切なポイントです。
COFFEE PROCESSING METHODS
FIGURE 02
コーヒーチェリーは、果実のどの部分を残し、
どの段階で乾燥させるかによって、精製の工程が変わります。
Naturalでは、果実を付けたまま乾燥させます。
Honeyでは、果肉を取り除き、ミューシレージを残した状態で乾燥させます。
Washedでは、果肉を取り除いたあと、発酵や水洗によってミューシレージを取り除いてから乾燥させます。
ただし、精製方法の違いは、単純に「発酵するもの」「発酵しないもの」という違いではありません。
果実やミューシレージを残して乾燥させる工程でも、その環境や条件によって微生物が働き、発酵が進みます。
違うのは「発酵する・しない」ではありません。
果実のどの部分を残し、どの段階で、
どのような環境で発酵と乾燥を進めるか。
NATURAL
ナチュラルは、収穫したコーヒーチェリーを果実のまま乾燥させる、
古くから行われてきた精製方法です。
果実を丸ごと乾燥させるには時間がかかります。
そのため、収穫期に雨が少なく、安定した乾燥環境を得やすい地域では、太陽と乾いた空気を利用したNaturalが長く行われてきました。
エチオピアのコーヒー産地の一部では、雨の多い季節を経てチェリーが成熟し、比較的乾燥する時期に収穫と乾燥を行える地域があります。
もちろん、エチオピアとひとことで言っても、標高や地域によって気候は異なります。
雨によって珈琲が育ち、
雨が少なくなる季節に実を収穫し、
太陽の下で乾かす。
チェリーを天日に広げたら、あとは水分が抜けていくだけ――ではありません。
果肉やミューシレージには糖分が含まれています。
果実を付けたまま乾燥させる間にも、そこに存在する酵母や細菌などの微生物が活動し、自然な発酵が進みます。
つまりNaturalでは、乾燥と発酵が同時に進んでいます。
発酵によって生まれるさまざまな成分や、乾燥・発酵中に起こる種子内部の変化が、最終的な香味にも影響します。
果肉の味がそのまま種子に染み込むというよりも、果実とともに乾燥・発酵する環境の中で、種子にもさまざまな変化が起きていると考えた方がよさそうです。
その結果として、果実を思わせる香りや甘み、厚みのある味わいを感じる珈琲もあります。
ただし、発酵が強ければ強いほどよいわけではありません。
発酵を伴いながら、腐敗させず、
適切な速度で水分を抜いていく。
Naturalは、ただ太陽の下に置いておけばできる精製ではありません。
WASHED
Washedでは、収穫したチェリーから果皮と果肉を取り除きます。
しかし、それだけでは種子の周囲にヌルヌルとしたミューシレージが残っています。
伝統的なWashedでは、これを発酵によって分解し、取り除きやすくしたあと、水で洗浄します。
Washedにおける発酵は、
もともとミューシレージを除去するための実用的な工程でもありました。
その後、パーチメントに包まれた状態で乾燥させます。
果実を丸ごと乾燥させるNaturalとは、種子が果肉やミューシレージと接している時間や環境が大きく異なります。
一般に、すっきりとした輪郭や明瞭な酸味などを感じる珈琲が多い傾向があります。ただし、これはあくまで傾向です。
味わいは産地、品種、発酵、乾燥、そして焙煎によっても変わります。
また、伝統的なWashedには水だけでなく、パルパー、発酵槽、洗浄設備などが必要です。
水と設備、そして地域の生産体制も、
Washedという精製を支えています。
PULPED NATURAL
Pulped Naturalは、チェリーの果皮と果肉を取り除いたあと、
ミューシレージを残した状態で乾燥させる方法です。
ブラジルなどで広く見られる精製方法です。
果実全体を乾燥させるNaturalと、ミューシレージを取り除いてから乾燥させるWashed。
Pulped Naturalは、工程だけを見れば、その間に位置するような方法ともいえます。
ミューシレージを残しているため、乾燥中にも微生物活動が起こります。
一方で、チェリーを丸ごと乾燥させるNaturalよりも、乾燥させる果実部分は少なくなります。
Fully Washedと比較すると、水の使用量を抑えられることも、この方法の特徴のひとつです。
味わいについてはNaturalとWashedの特徴を単純に半分ずつ持つわけではありませんが、甘みや丸みと、比較的明瞭な風味を併せ持つ珈琲に出会うこともあります。
HONEY PROCESS
蜂蜜を使う
精製方法ではありません。
果皮と果肉を取り除いたあと、糖分を含んだ粘液質「ミューシレージ」を意図的に残し、その状態で乾燥させる方法です。
Pulped Naturalと技術的に重なる部分も多く、両者の呼び分けは生産国や生産者によって異なる場合があります。
残されたミューシレージでは、乾燥中にも発酵が進みます。
FIGURE 03
この色は、単純に「ミューシレージを何%残したか」だけを表すものではありません。
残されたミューシレージは、乾燥が進むにつれて水分を失い、酸化や褐変によって見た目も変化していきます。
ミューシレージの量だけでなく、乾燥速度、日照や日陰、攪拌などの条件によって乾燥中の見た目にも違いが生まれ、White、Yellow、Red、Blackなどの呼称が使われています。
生産者によってミューシレージの残し方、乾燥方法、そして色の呼び方も異なります。
White → Yellow → Red → Blackは、
単純な「ミューシレージ残存率メーター」ではありません。
WET HULLED
ここで、もう一度「土地」に戻ります。
インドネシア、とりわけスマトラの珈琲でよく知られているのがWet Hulled(スマトラ式パルプドナチュラル)、現地で「Giling Basah」と呼ばれる精製です。
一般的なWashedでは、パーチメントを付けた状態で十分に乾燥させ、その後に脱殻します。
Wet Hulledでは、途中まで乾燥させた段階で、まだ比較的多くの水分を含んだ豆からパーチメントを取り除きます。
そして、むき出しになった生豆をさらに乾燥させて仕上げます。
スマトラには、高い湿度や降雨によって長期間安定して乾燥させることが難しい地域があります。
そうした環境だけでなく、地域の流通や生産の仕組みなどとも関わりながら定着してきた方法です。
Wet Hulledによって生まれる風味だけがスマトラ珈琲の個性を決めるわけではありません。
けれど、この土地で続いてきた精製方法が、マンデリンをはじめとするスマトラ珈琲の味わいの一部を形づくってきたことは、精製と土地の関係を考えるうえで興味深いところです。
CLIMATE & PROCESS
FIGURE 04
収穫 → チェリーのまま乾燥 → 脱殻
収穫 → 果肉除去 → 予備乾燥 → Wet Hull → 仕上げ乾燥
比較的乾燥した季節を利用して、チェリーを丸ごと乾かす地域。
雨や高い湿度と向き合いながら、できるだけ効率よく水分を抜いていく地域。
水を豊富に利用できる地域もあれば、できるだけ水を使わない方法が求められる地域もあります。
精製方法だけを見ていると、「Naturalだから果実味がある」「Washedだからすっきりしている」といった、味の違いだけに目が向きがちです。
なぜ、その土地では
この精製方法が使われてきたのか。
精製とは、その土地で珈琲をつくり続けるために
培われてきた知恵でもあります。
FERMENTATION
ここまでNatural、Washed、Pulped Natural、Honeyを見てくると、ひとつ共通するものがあります。
発酵です。
果実を
付けたまま
乾燥する間に
残された
ミューシレージと
ともに
主に
ミューシレージを
取り除く工程で
発酵は、新しく珈琲に持ち込まれたものではありません。
昔から、珈琲の精製の中にありました。
土地の気温や湿度を見る。
香りを確かめる。
ミューシレージの状態を見る。
乾燥の進み方を確かめる。
長い間、生産者はその土地で培った経験をもとに、発酵と乾燥を管理してきました。
そして近年、その発酵そのものをより詳しく理解し、積極的にコントロールしようとする動きが広がっています。
WINY / WINEY PROCESS
発酵そのものは、昔から珈琲の精製の中にありました。
その一方で、発酵によって生まれる香りや味わいを意識し、より積極的に利用しようとする精製も行われるようになっています。
その例のひとつとして、Winy、Winey、Wine Process などと呼ばれる珈琲があります。
名前のとおり、ワインを加えているわけではありません。
発酵の進め方や乾燥との組み合わせによって、熟した果実やワインを思わせる香り、発酵由来の個性的な風味を引き出した珈琲に、このような名称が使われることがあります。
「発酵を止めるタイミングを見る」ことから、
「発酵によって、どんな味をつくるか」を考えることへ。
中国・雲南などでは、チェリーを一定期間発酵させたあと乾燥させ、Wineyな香味を引き出す精製の例が見られます。
また現在では、発酵時間だけでなく、温度や酸素の状態、pH、糖度、微生物など、発酵を取り巻くさまざまな条件を測りながら管理する方法へと発展しています。
※Winy / Winey / Wine Processなどの名称や工程には世界共通の統一された定義がなく、生産者や地域によって異なります。
CONTROLLED FERMENTATION
FIGURE 05
香り
手触り
気温
乾燥状態
発酵中に起きていることを測ってみる。
すると、これまで経験によって管理していた工程を、さまざまな数値として見ることができます。
さらに、自然に存在する微生物に任せるだけでなく、特定の酵母や乳酸菌などを選び、スターターカルチャーとして加える方法も研究・実用化されています。
発酵時間だけを長くすれば、特定の香りになるわけではありません。
温度、酸素、水分、pH、糖分、微生物、そしてもともとのチェリーの状態。
さまざまな条件が組み合わさって発酵は進みます。
変わったのは「発酵するかどうか」ではなく、
発酵をどこまで意図的にコントロールするか。
かつて精製方法は、土地の気候や環境に適応するために発達してきました。
いま精製は、そこからさらに、味わいそのものを積極的に設計する技術へも広がりつつあります。
ANAEROBIC FERMENTATION
その代表的なもののひとつが、Anaerobic Fermentationです。
Anaerobicは「嫌気性」を意味します。
チェリーや果肉を取り除いた豆などをタンクに入れ、外部からの酸素供給を抑えた環境で発酵させます。
Anaerobic = Natural
ではありません。
Natural / Washed / Honeyが主として果実をどのように処理するかを示すのに対し、Anaerobicは主として発酵させる環境を表す言葉として考えると分かりやすくなります。
NEW PROCESS
二酸化炭素を利用した環境で発酵させる方法。
選択した酵母を加えて発酵させる方法。
乳酸菌の働きに着目した発酵。
通常より長い発酵時間を設定する方法。
条件を変えながら複数の段階で発酵させる方法。
果物やスパイスなど、コーヒー以外の素材を発酵工程に加える方法。
ただし、この分野は現在も変化しています。
名称や工程が世界共通の規格として統一されているわけではなく、同じ名称でも生産者によって工程が異なる場合があります。
新しい名前だけで味を想像するのではなく、
何を、どの状態で、どのような環境に置き、
どのくらい発酵させ、その後どう乾燥したのか。
OUR THOUGHTS
ここからは、精製を行う側の話ではありません。
さまざまな精製の生豆を焙煎し、飲んできた焙煎する側から感じていることです。
新しい精製や発酵技術によって、これまでの珈琲にはなかった香りや味わいが生まれています。
淡島珈琲でも、そうした豆をいくつも飲んできました。
発酵由来の香りが穏やかなものには、果実味に奥行きを与えたり、ほんの少し個性的な香りを加えたりする面白さを感じます。
一方で、その個性が強くなるほど、私自身は珈琲豆そのものの風味よりも、発酵によってつくられた香味を強く感じることがあります。
もちろん、それを「華やか」「複雑」「新しい珈琲の味」と感じる方もいるでしょう。
どちらが正しいというものではありません。
淡島珈琲が大切にしたいのは、
産地や品種が持っている風味を、
精製と焙煎によって引き出すこと。
精製によって豆の個性を引き出すことと、
精製そのものの味をつくることは、
同じではない。
そのため現在の淡島珈琲では、発酵由来の香味が非常に強い珈琲を積極的には扱っていません。
新しい技術を否定するのではなく、知ったうえで、自分たちがおいしいと思う珈琲を選ぶ。
それもまた、珈琲を楽しむひとつの方法だと思っています。
FIND YOUR TASTE
精製方法を知る目的は、専門用語を覚えることではありません。
「この珈琲は好きだな」と思ったとき、その理由を探す手掛かりのひとつになるものです。
ひとつの珈琲の味は、それぞれが重なり合って生まれています。
同じ産地でも、精製が違えば印象が変わることがあります。
同じ精製でも、産地や品種、焙煎が違えば、また違う表情を見せます。
だから、最初から自分の好みをひとつに決めてしまう必要はありません。
その日の気分やシーンによって、「おいしい」と感じる一杯も変わります。
自分の「好き」を
増やしてみてください。
淡島珈琲も、そのための珈琲をつくっていきたいと思っています。
REFERENCES
淡島珈琲は、生産地で珈琲の栽培や精製を行っている立場ではありません。
このページでは、日々さまざまな生豆を焙煎し、飲み比べる中で感じてきたことに加え、研究論文、研究機関、生産者、コーヒー関連機関などが公開している資料を参考に、代表的な精製方法と発酵についてまとめています。
精製方法の名称や工程は、生産国、地域、生産者によって異なる場合があります。
また、発酵に関する研究や技術は現在も進んでおり、ここで紹介した分類や考え方が、すべての珈琲にそのまま当てはまるものではありません。
Coffee fermentation process: A review
Food Research International, 2023.
コーヒー発酵を、精製方式、酸素条件、発酵環境、スターターカルチャーなどから整理したレビュー。
Pulped natural / honey coffee processに関する研究
Food and Humanity, 2024.
Pulped Natural / Honey Processの工程や水使用、ミューシレージを残した乾燥についての参考資料。
Fermentation conditions and sensory quality
2025.
発酵時間、酸素条件、精製方法、地域など、複数の条件と品質との関係についての参考資料。
Coffee processingに関する技術資料
収穫後処理、乾燥、Wet / Dry processingなどの基礎資料。
Coffee fermentationに関する教育・技術資料
発酵中の微生物活動や、種子内部で起こる変化などを理解するための参考資料。
その他、各生産国、生産者、輸出業者および研究機関が公開する精製・乾燥・発酵に関する資料を参照しています。
※本ページに掲載している一部の画像はAIによって生成したイメージであり、実際のコーヒーチェリーや生豆の状態とは異なる場合があります。